豊かな緑と大地に恵まれた大陸の片隅に、小さな王国がありました。

名はヘレネス王国

ヘレネスの王は優れた才能の持ち主で、争いごとを好まない平和主義者として有名である。
だがそのことは国がショボいためか、近隣諸国にしか知れ渡っていない。
資源物資が豊富でもないヘレネス王国は、大国からも長年アウトオブ眼中。

そのためひっそりと栄えてしまい、緑と調和する美しい国へと成長した。

このことはラッキーなのか王の手腕なのかは謎である。
ヘレネス王国は、とにもかくにも平和な国でした。



…しかし、そんな穏和な国に対し 『 刺激が足りん! 』 と叫ぶ人物が現れた



そんなヤツは大抵、物語のラスボスであることがパターンなのだが…。

問題なことに



ブーたれたのはヘレネス王国のお姫様であった






***






何度目か分からない溜め息が、少女の口から重々しく出される。

さっきから部屋の窓に肘を付き、朝からずっとこの状態

しかも溜め息をつくことを意識し始め、それは次第にイライラを募らせてしまう始末
結局はバカバカしくってまた溜め息がもれる。 そのくり返しだ


「つまらん」


無意識に声を出してしまった彼女は、ヘレネス王国王女 マドレーヌ姫

彼女は平和な日々が一番の幸せだと分かっていても、何か物足りないと感じてしまう。


ストレスが溜まっているわけではない


日々訓練では、自分の護衛と一緒に母国の兵士をフルボッコにして楽しんでいるし
メイド長と一緒にお菓子を作って、乙女心は培われているし
黒髪をなびかせ不審な動きをするメイドとの悪巧みは面白いし


楽しいことが続く毎日
…でも、楽しい日々も毎日続けば退屈なのと変わりはない。


何か刺激的で面白いことはないか

読書好きで養われた豊富な想像力を働かせてみるが、どれもすぐには出来ないことばかりが思い浮かぶ


こう、パッときてビビッとすること、ないかしら…。


何かないものかと、部屋の本棚にあった本を気まぐれに取り出しパラパラと流し読みをし始めてみた。

マドレーヌの本棚には幅広い種類の本がギッシリ詰まっている。
歴史書からギャグ漫画、おまけにジャ◆ーズ写真集まで、もう色々


その中で彼女が偶然手に取った本は、目がやたら大きくキラキラしている少女と優男の恋物語
姫は本の表紙を自然と痛々しい目で見ていた
…誰しも運命の出会いに憧れるものだが、いつのまにか「んなの有り得えねー」と一蹴してしまっていた


だってそんな運命的な出会いって、そう起こるものじゃないと思うし。


…冷めた見方をしてしまって、少し自分が悲しくなる姫様だった

恋に憧れてはいるが、出会いというチャンスが全く無かったお姫様


作り話のような出会いなんて、あるわけないわよね。


自嘲気味に笑いつつ、無い物ねだりのつもりで自分の理想の男性を想像だけはしてみる。



健康そうな御髪に、淡い雪のような肌

キラリと光る白い歯に、甘いフェイス

そして私を包み込める程の体格の…




※ 素晴らしい想像をしてらっしゃるマドレーヌ様ですが
もう鳥肌が立ちそうな読者様の為、割愛させていただきます




そんな殿方に早く、私はお会いしたいです…。
想像に花を咲かせ終えた姫様はふと現実へ戻る


何やってんだかと再び溜め息をつきかけたが、その時タイミングよく部屋にノックの音がなった。


「アイスです。 姫〜、紅茶とお菓子持ってきましたよ」


現れたのは
右手に紅茶とお菓子が乗った盆を持った、マドレーヌ姫専属の護衛 アイス隊長


ポニーテールをゆらゆら揺らしながらテーブルに二人分ティーセットを並べはじめる。

マドレーヌも本を元へ戻して席に着き、そして先ほどしそこねた溜め息をゆっくり吐きだした。


目ざとくその様子を見たアイスは姫と本棚を交互に見、手を動かしつつさり気なく尋ねる


「さっき、何の本を読んでらしたんですか?」
適当にベ◆バラ?と当てようとするが、違うと否定されてしまう


「只のレンアイ漫画よ」
恋愛という言葉にニュアンスをこめ、そっけなく返事を返した。
しかしその言葉にピーンと来た護衛隊長はニヤ〜と笑い返す。


「もしかすると、恋のお悩みですかー?」
ぷぷっと口を尖らせ笑いだしそうなアイスに姫は0.5秒の速さで銃を抜き、目前のデコに向けて発砲
パシッ!と乾いた音が響く。 ゴム弾とはいえ近距離発射はさすがにイタイ


「ちょっと、作業中に止めてくださいよ。 紅茶の中にお菓子ぶち込みますよ
「したら鼻の穴にもう一発撃ち込むだけよ


顔の下から銃を構えられてアイスの分が悪いが、負けじと姫を見下ろしガンたれる

…そのまま無言のにらみ合いが続くが、さっさと紅茶入れてよと姫が先におれた


「どうしてそう、恋の悩みだと思うわけ?」
呆れ半分にお菓子をほおばりながら話題を戻す

「ついさっきアケメネス王国の噂を聞いたものですから」
姫は聞き覚えのない言葉にキョトンと首をかしげた

「あけめねす? どこよそれ」
アイスに向きなおり律儀に聞き返す、と同時にもう一発同じデコに向かって発砲した
ペチッ!といい音が鳴る


「アタっ。 何で撃つんですか! しかも同じ所にピンポイントで」
「あなたの顔に、うわマジでコイツ知らないの? と書いてありました」
「顔になんて書いてませんよー! …心には書いてありますが

やっぱり思ってたんじゃない! しかも表情にですぎなのよ、不愉快顔がっ!

姫は素早く引き金を引くが、さすがに3度目は避けられてしまった。

「どうして同じトコ狙うかな…」
「狙いやすいデコ出してるからよ」

かなり横暴な姫様


「ほんっとにアケメネス王国ご存知ありません? ヘレネスの隣国ですよ」

さすがに隣国ともなれば知っているはずよね…。 焦りつつ懸命に考える姫サマ
そんなのはお構い無しにアイスはお菓子にがっつきながら喋る


「私はてっきり今噂の『アケメネス王国主催のお見合いパーティー』の件だと思ったんだけど。
姫様もお年頃だし、興味あるのかなーって」


なにそれ!?


姫の大声に驚き、アイスはいち早くデコを防ぐ。 が、弾は飛んでこなかった
しかしそのかわりに、ものごっつい剣幕で問い詰めだすマドレーヌがいた。


「いつ?? どこで?? エエ!? どうして私だけ知らないのよー!!


別段、マドレーヌ姫に秘密ということでは全くないが、思い込みの激しい姫様は混乱中。
急にヒステリックになり、こんな状態の姫は手に負えないこと熟知している護衛さんは…
詳しいことはメイド長が知ってますよ、と悪ぶれもなく興奮気味の姫を他人に押し付けた

それを聞いたマドレーヌは手早く紅茶とお菓子を処理し、後片付けヨロシク! と言い残し
グミ総長を問い詰めるため部屋を飛び出していった




行動力有りすぎなお姫様がついに動き始める…。






***






嵐のような主君がいなくなり、取り残された護衛隊長は


「なんで全部食べてくかなー…」


お菓子皿に向かってポツリと呟いていたり。










意地汚いヤツラ!