一方、お見合い会場では盛大なパーティーが催されていた。

煌びやかなドレスを纏った女性や、スラッと燕尾服を見事に着こなす男性。
勿論ビジュアルは文句なしのイケイケのお方たちが勢ぞろい。


「素敵過ぎる!!」


会場に足を踏み入れたとたん、マドレーヌは興奮気味に息を荒げた。
それもそのはず、目に入る殿方がすべてイケメン揃いで、しかも名のある家の者ばかり。

早速姫は行動を開始した。

近くに居る人から手当たりしだい声を掛けまくる。 かけて、かけて、掛けまくるっ!!
それはもう犬のマーキングを想像させる勢いっぷり。


会場の入り口で様子をうかがっていた、護衛のアイスと主催国の大臣もバッチリ目撃している。


「お宅のお姫様って無節操だな…」
「そんなことないって」


姫の護衛は否定するが、どう見てもキャッキャあちらこちらのテーブルに移動しては楽しんでいる様子。
時には、スーツ最高ー!と言いながらウエイターにまで声をかけている。

折角催したパーティ−なのだから、客人に楽しんでもらえるのはアケメネスにとって幸い。
だが、この姫様だけには母国の王子と無縁であってほしいと願うのは、大臣として身勝手だろうか。


「はぁ。 隣国ヘレネスのお姫様があんな子だったとは…」
「何?けんか売ってるの」
「違う違う」


隣国とはいえ、ヘレネスは閉鎖的な国として位置づけられている。
静かな国で育てられた、おしとやかな少女を想像してた大臣。
儀礼的に送った招待状がジョーカーを連れてくることになるとは予想していなかった。
(しかも招待状忘れてくるし)


「おっ、うちの姫がアンタの自慢の王子に気付いたみたい」


目ざとく姫の行動を観察していたアイスが声を上げた。
上座のテーブルに座っている男性がマドレーヌと向き合っている。

こいつは見ものだとニヤリと笑う隣国の護衛。
何事もありませんように大臣はただ願うばかりだった。





-----





一目見た瞬間、衝撃が全身に走った。
もうこの人から目が離せなくなる程の状態。

マドレーヌにとって理想の殿方がまさに目の前にいた。


白いタイツに直接ブーツという独特なセンスの足元。

ふんわり綿が詰めてありそうなほど膨らんだ、真っ白なかぼちゃパンツ。

おへそがちょこんと出ている理由がイマイチつかめない上半身。

そしてメガネの奥にキラリと光る瞳に真っ白な雪のような肌…。



そう美化されて見えるのは姫独自のフィルターがかかっているからで。
普通の人が見れば声を掛けづらい人この上ない風体だった。

上座に居るとはいえ、実際はかなりパーティー会場の隅に避けられていた王子様。

でもそんなこと気付きもしないマドレーヌは王子を穴が開きそうなくらい見つめていた。

その視線にイタかったのか、耐え切れなかったのかは分からないが
王子もマドレーヌ姫の存在に気付く。



「まいどっ!」

果てしなく意味不明だが王子の第一声が大阪弁であった。


「あ、あの!」

しかしマドレーヌは緊張していてそんなところまで気が回らない。


「なにか御用ですか」
「好きです!! 付き合ってください!!」


間髪いれずに即答する姫。


「いいですよ」

同じように何の間も空けずに返答。


なんだこのアッサリとした告白現場は。
会場が一瞬にして静まった…。



「え、ちょ、今の何!? ええぇ!?」

もっとも混乱していたのは王子の教育係でもあるフラッペだった。
今まで恋愛に関してはじっくりと教えてきたはずなのに!?

今すぐ会場に出て行って王子をドツきたい衝動に駆られるが、会場内はワーワーとカップル誕生の拍手が送られている。
あるいは一番の珍品を引き取ってくれた、皆からのお礼の拍手かもしれないが。

会場の賑わいを一斉に受けながら、姫と王子は互いに自己紹介をしだす。
まったくもって順番がおかしい。

その間、フラッペは床に突っ伏していた。 ありえねぇ…と呟くその肩に、ポンポンとアイスが慰めるように叩いた。


「お互いこれから大変だね☆」

励ましのつもりで言ったアイスだが、フラッペにはトドメの言葉に聞こえた。





-----





お見合いパーティーがまだ続いている最中だが、場所を移したアケメネス王国の一室。


そこに4人の男女が向かい合わせに座っていた。
学校の個人面談のように2対2。 王子の横に大臣、姫の横に護衛。
顔を引きつらせる大臣をよそに、王子と姫は会話に花を咲かせているのがせめてもの救いだ。


「遠路はるばるようこそアケメネスへお越しくださいました。 我々はお二方を歓迎しますよ」


紳士的にヘレネスの二人へと王子が言葉をかける。

だが歓迎も何も、アケメネスはすでに門番二人やられているんですけど…。
フラッペは切に思う。


「まぁ!ご丁寧に。 本当にお招きにあずかり嬉しいですわ、王子様!」


その後クスクス二人して笑う様子を大臣はゲンナリ見ていた。
アイスは出された紅茶をチビチビと明後日の方向を見ながら飲んでいるし。

誰にも、この二人の間には入れない何かがすでに出来上がっちゃっている。

しかし…ここで、この国を担う王子がこのトンデモ王女とくっ付かれると、アケメネスの今後が危ない。
王子の教育係として、いや、アケメネス王国大臣としてフラッペが立ち向かわねばならない問題だった。


王子と王女の会話の間を見計らって、フラッペはマドレーヌ姫を見据えた。
すると、それに反応するようにマドレーヌも大臣へ視線を投げ返した。


…腹をくくって口を開こうと、大臣が身を乗り出す直前


ホワイティ様!窓から見えるお庭のバラが素敵ですね!」

マドレーヌが窓を指差し王子へと声を投げ掛けた。

姫の言葉につられて皆が庭へ視線を向けた瞬間。


パンッ


肉眼では追いきれない物がフラッペの髪を貫通した。
ハラリと金の髪が数本床に落ちる。


そして目の前のマドレーヌが声を出さずに言った


(当 て る よ ?)


どこから取り出したのか小型の銃を大臣へと真直ぐ向けている。
にっこり微笑むオプション付き。


「スミマセンでした!!!!」


フラッペは頭を深々と下げ、謝るしか他に生き延びる道は無かった。


え、私まだ何もしてないよね!?思っただけだよね!??

大臣は助けを求めるように涙目でアイスを見るが、彼女は相変わらず我冠せずの状態。
無言で首を左右に振るだけ。 …それでも充分な回答だった。

恋の障害には敏感すぎるマドレーヌの恐ろしさを生で体験した大臣でした。



そんな中、一人乗せられた王子は窓際で姫のためにバラを集めている。

まったくこの状況に気付かない。

マイペースもここまで行くと神の領域かもしれないが、何事も変わらず王子は姫にバラを差し出した。


「まぁ綺麗!」
「いえいえ、貴女の方が何億倍も綺麗ですよ」

痛々しいばかりのラブラブモードを見せ付けてきやがる。
フラッペは段々と胃が痛くなるのを感じた。


その後はもう、このバカップルを放置状態で…。
二人はいつのまにか庭へ散策に出かけることになったいた。


「フラッペ、テラスにもお茶の準備を用意できるかな」
「あ、ハイ。 後で用意します」
「アイスさん、貴女も手伝いなさい」
「了ー解」


ちゃっかり邪魔者を追い払うマドレーヌ姫。

ようやく二人だけの世界になれた王族二人は、ハートを撒き散らしながら仲良く部屋を去っていきましたとさ。









(09/6/2)
 まさにラブストーリーは突然に。 こんな二人が、今後どうなっていくか…。
二人は愛の運命からは逃れられない。 それを取り巻く仲間達も逃れられない。 (迷惑すぎる
無駄に意味不明なほどのLOVEを振りまく、お姫様の恋愛☆衝撃物語が始まります!
今後の展開に乞うご期待!


     







---------- おまけ





一時間後、ようやく本職を思い出したアイスとフラッペは自分達の主君を探すべく
アケメネスの名所ともなっている、バラが咲き誇る庭園へと来ていた。

庭一面の真白なバラはそれはそれは美しい。
これは女性なら誰しも息を呑む空間なのだが、二人はそんなことより
この場所で主君同士がこれ以上親密な仲になってしまうのを恐れて少し焦った。


「早く探そう」

「って居ないじゃん!」


ホワイティとの約束のテラスには誰にもおらず、真っ白なハトがちょこんと居座っているだけだった。

アイスには姫たちがここに居ない理由に思い当たるが、大臣は王族二人に悪態をつきながら次に行きそうな場所を挙げた。

どうやら庭園の隅に小さな池があるらしい。


「池なんて城によく造ったね」

「仕方ないだろ、王子が…」


そのあとは何も言わず、ただ自嘲気味に笑うフラッペ。
…この大臣本当に過労死しちゃうかもしんない!と、アイスも一緒に屈託の無い笑顔で一緒に笑う。



しかし、



池にたどり着いて

二人は完璧に笑えなくなった。



探していた主君、もといラブラブな二人は、優雅にボートに乗って―――



    
     ―――タイタニックごっこ実施中。



そのまま沈んでしまえ。




本日出会ったばかりの二人だが、もう以心伝心な状態。
半眼で目に悪そうにその様子をただ見ていた。






出会い編 完

お付き合い有難うございました!