ヘレネス王国を出発した二人はアケメネス王国へ向け走り出していた。

馬車でなく単騎で移動した為、難なく時間には間に合いそうだ。

だけど到着までは少しかかる。

ただ後ろで座っているのも暇なので、飽きっぽい姫様は早くも馬上で遊び始めた。


「はぁ、前に座っているのが王子様なら最高なのに…」

「マドレーヌ様、喋ってると舌噛みますよ」


陰に黙れとアイスは言っている。 だが全てを聞き流す姫様。


「アイスさん、どうして白馬連れて来なかったの? 馬イコール白でしょ普通!」

「悪かったですね、う〇こ色で」


こら!! 乙女がそんな言葉使うな!!
と背中をバシンと叩いて抗議するがアイスは全くの無反応。


「面白くなーい」

「もうすぐ着きますから…」


ごねる姫をなだめるのも手馴れたもので。
あーだこーだ、おしゃべり好きのマドレーヌに適当な相づちをしつつ、アイスは走るペースを速めた。





そんなやり取りをしている間に、二人はアケメネス王国へ到着する。


城下町に入り、手早く馬を預けて、パーティーが催される城へと向かった。

さぁ初陣よ!とばかりに威勢よくマドレーヌは走り出した。
テンションMAXの姫はノリノリで、やる気のないアイスは早くも疲れ気味だった。


「アイス遅い!!」

「急がなくても間に合いますよ」


そう言いつつ後ろからガシャガシャ音を鳴らしながら姫の後を追いかける。

…ガシャガシャ?

追いついてきた護衛をよく見ると、背中に黒光りする怪しい物が見える。


「…あー、背中に背負ってるものは何?」


間違いなく。 アイスの背中には銃器…ってか愛用しているロケットランチャーがぶら下がっていた。
隣国に喧嘩売りに来てるワケじゃないのに、マドレーヌは背中のブツを心配する。
これから殿方と楽しいひと時を過ごすのに、何に使うつもり!?


「え、姫だって持ってるでしょ」

「これは護身用だからいいの。 もう、ヘレネスでは無いんだから、穏便に行きましょうね!」

「はーい」


素直な返事が返ってくるが、チッっと舌打ちがなったのを姫は聞きもらさなかった。





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アケメネス城は、城壁も装飾も白を基準とした造りで、とても清潔感のある城だ。
兵士達は白銀の鎧を身にまとい、メイド達もナースに間違えそうな純白の制服。
ぶっちゃけ「ここは病院ですか」と尋ねたくなる場所だった。


「ああぁ、周りが白すぎてクラクラするわ…」

「姫の心が真っ黒だから仕方が無いですよ」

「アンタにだけは負けたくない」


そんなキッパリ言わなくても〜、と口げんかはいつものことで
アケメネス城の門前が見えると頭を乙女モードに切り替え、姫は颯爽と受付へと駆け出した。


そしてハンドバックをゴソゴソと。


ゴソゴソと。

ゴソゴソ…。


「?」


のそのそ歩いて追いかけていたアイスの元へ、何故かマドレーヌは引き返してきた。


「どうしたんですか?」

やばい、招待状落とした


…こういうハプニングはよくあることで。 馬上で騒ぐからだと言ってやりたいが、
顔面蒼白なマドレーヌの表情を見てアイスは言葉を飲み込んだ。


「…仕方が無いですね。 門番の方を説得してみましょうか」

「説得?」

「どこです?門番は」

「あっ、あそこの二人」


少し涙声で声が裏返ったが、慌ててさっき行った入り口の門番を指差す


「なんだ、弱そうですよ


予想外の返答にマドレーヌは焦った。

アンタ何考えてるの!? とポカンと口を開けてしまった。
しかし当の本人は至極当たり前のように言い残す。


「それじゃ姫はここで待っててくださいね。 大丈夫ですよ、説得は私の得意分野ですから」


初耳だし、妙なスマイルだし、色々と不安が残るが

アイスは行ってきまーす!と楽しそうに出発し、門番と話をすべく門の中へと入っていった。


残された姫はポツリと一人で待つことになる。


あああ、どうして招待状を落としてしまったのかしら。
何処に? えっ、ヘレネスに置いて来たかも? わー!私のバカー!

静かになった門前でマドレーヌは早くも自己嫌悪に陥っていると



そのとき、音がした。





ゴン、ゴン!





「……はい?」


姫は動きを止めた。


…音源を無言で凝視していると、門の隙間からアイスが顔だけを覗かせ


「終わったよー」


何がだ。

姫は秒速で突っ込んだ。

アイスがひと仕事しましたという笑顔で、カムカムと手招きしている。


ああ、やってしまったのね…。


長く一緒に居ると、さっきの音で大体想像がついてしまった。

ちょっと目頭を押さえる姫だが、それでもあっさり門をくぐる。




中には、ヘルメットがベコンベコンに凹んで倒れている兵士がふたり。

そして満足気にロケランで肩を叩くアイス。


…アナタ、確かに『説得は得意だ』と言いませんでしたか。


姫はギギギとアイスを振り返って、ぽつりと呟いた。



「…目的の為なら本気で手段を選ばないアイスさんの外道さ、尊敬しますわ」

「ん? そんな事言いながらあっさり受け入れてる姫の無情さ、私は好きですよ」



伊達に護衛隊長はやっていないアイスさん。

姫は足元に転がっている他国の兵士に心の中で合掌しつつ、ゴメンネと呟く。

うーうー兵士は唸っていたが、謝っただけでさらっと無視である。



そして二人は、お見合い会場の扉を凝視した。 (睨みつけたとも言う)


そこには顔を引きつらせた金髪の大臣がいたけれど、二人は無言でじっと見つめた。
大臣はアイスもさすがに沈めなかったらしく、かろうじて健在である。


まずアイスがゆっくり進み出て、笑みを崩さず話しかける。


「姫がパーティーに参加したいって言うんだけど、できるよね?」


姫の護衛隊長、ロケランをぶらぶらさせながら笑顔で脅迫。

疑問系なのにもはや断言。


逃げ場のない大臣が、ひくっと顔を引きつらせて、後ずさる。
目の前で門番を沈められた光景はバッチリと目撃している。


「仕事熱心なのはイイ事だけどね。 …けどさ」


そして低い声で、ささやいた。


「全部、命あっての物種って言うでしょ?」

「で、ですが、身元が分からない方をお通しする訳には…」


ん〜 どうします? この通り、この人なかなか頑固ですよ。 と、アイスが姫に聞いてみると

せっかくここまで来て、収獲無しには帰れない。 素敵な人を見つけるまでは…!
そう強く決心している姫は、ぐぐっと血管が浮き出るほどの握りこぶしをつくり


「昔の人は言いました。 バレなきゃよし!!

「いや、思いっきりバレバレです…」

「うん。 ですからね、ここの担当の君が気づかなきゃ、いいじゃありません?」

「き、気づいちゃいました…」

「うん。 問題はそこなのよね〜」

忘れさせてあげよっか?


さらっとアイスが割り込んで、地獄の選択開始である。

門番の末路を思い出し、大臣、男(女)泣き。 もう好きにしろ!!


「ありがとっ! 聞き分けのいい人でよかったわ。  さ、行くわよー!!」


大臣をケツで押しのけ、会場へと乱入する姫。

そんな逞しい後姿をがんばってね〜 と手をひらひら振り見送る護衛隊長。


後は彼女しだい。


任務を終えたアイスは、隣でホッとしているやつに目を付けた。


「………」


「………」


「暇だから仕事に付き合ってあげるよ」


いやどっか行ってくれ!


大臣フラッペは、唇をかみ締めこの言葉をぐっとこらえた。









こんな出会いヤダよねー
(09/4/26)(6/2加筆)